近年、食品のテレビCMで左利きのタレントさんの食事シーンが多くなりました。
国民の8%から15%くらいは左利きの人が存在するようですので、左利きの食事シーン率が多いかな?という印象があるとはいえ、ごく自然な現象と思われます。
ところが、この現象が保守的な層からの格好の非難の的となっているのです。
以前は自主規制されていた左利き映像
何でも以前は、テレビCMの食事シーンで左利きの人を起用したことで苦情が寄せられたりするケースが多かったようで、業界では自主的に規制していたようなのです。
中には左利きの前田敦子さんが、右手で箸を持ったCMの例では、「右手で箸を持つのが日本の作法だ」という保守的な意見に押されたのではないかという疑念から、多くの左利きの人たちから不快感が示されました。
持って生まれた個性を否定される苦痛
生まれながらに「左利き」である人に「右手で箸を持ちなさい」というならば、右利きの人が左手で箸を持とうとしたときに、どれだけ不便を強いる行為なのか考えてほしいと思います。
ほとんどの右利きの人は、左手で持った箸ではロクに食事できないことが分かるはずです。
にも、かかわらず、なんと、世の中には、左手で箸を持つ人たちに対して「自分が食べやすいという個人を優先するなら、犬食いでも手づかみでもいいのか?マナー崩壊だ」と噛みつく人までいるのです。
<ツイッターより>
ちょっと調べてみると、左手が無礼、マナー違反みたいなの結構ある。
— apricoworks (@apricoworks) 2018年7月12日
なんとなく左利き差別が横行していることを知る。
そもそも買い物しに来ただけで命を狙われるとかサイコパスかよ。 https://t.co/hQYJqxwgNY
— ゆいまる(外来種) (@YUIMARU_BETA) 2018年7月15日
「百貨店でのマナー講習で「お辞儀をする手は刀を持つ右手を封じてお客様に安心して..」https://t.co/F4Dxndr4sD にコメントしました。
また、蛇足ですが、最近の味の素のクックドゥなどのCMで大口を開けて頬張ったり、大皿の料理を取り合いするかのようなシーンにも批判が集まっています。
にわかには信じがたいですが、「味の素のCMは吐き気するほど不快だ」とまで言うのです。
この飽食の時代にあって、食べ物を美味しそうに頬張ったり取り合ったりなんて、微笑ましいなあ、と筆者などは思ったりもしますが、そうは思わない人がいるというのも事実なのですね。
マナーとは何か
不快だと思う人が少なくなるように標準化した行為が作法・マナーだとすれば、不快だと思う人が少なければ、それはもはやマナーとしての当初の目的とはズレてしまっています。
大口を開けて食べたり左手で箸を持ったりという風景はテレビCMで流されているくらいなので、多くの人に受け入れられているのが現実でしょう。
だとすれば、これらは本質的にはマナー違反とはいえないのではないでしょうか。
「社会人マナー講習」などを受講すると、今や誰も知らないことを「それはマナー違反です」などと指摘されます。
一握りのマナーマニアだけが知っている行為が、どうしてマナーだといえましょうか。
<ツイッターより>
.@yokoshimanaruko さんのコメント「こういう誰の役にも立たずマナー講師の飯種になるだけのマナーは潰していったほうがいいのでは。」にいいね!しました。 https://t.co/7lvFsuMvAh
— まゆーん@姫路 (@MrMayoon) 2018年7月15日
もし、不快だという理由だけで左利きCMを非難・攻撃するのであれば、私だって、不快に思うことはたくさんあります。
伝統的なお祭りでのケンカまがいのパフォーマンス、暑い夏にスーツの上着を着て汗を垂らしている人、札幌のヨサコイソーラン祭り・・・。
不快というだけで非難はできません。お祭りの伝統を守らなければならない事情、熱中症で死にそうでも取引先から暗に求められる服装、経済効果に貢献しているイベント・・・。
話が逸れましたが、左利きの人には、左利きとして生まれてきたという事情があります。当たり前に存在していて良いのではないでしょうか。
右利き左利きはマナーの問題じゃないよ。生まれて持ってきた個性だから。左利きで産まれてきたらその時点でマナーが悪いとかおかしいでしょ。右利きだってマナー悪い奴はごまんといるし、左利きでマナー講師してる人だっているよ。それは酷い偏見だと思う。
— よしゅり@偽善活動家 (@JC_yosyu) 2018年5月4日
少数派の権利を守り差別を受けないことも大切
一方で、不快だと感じていても個人の権利を侵害したり差別を受けたりしないように配慮することも大切です。 近年は、LGBT(性同一性障害)や、先天性の病気や、日本と異なる文化を持つ外国人などへの理解が進み、多様な価値観が共生できる土壌ができつつあります。
テレビの中でも、様々な人たちを分け隔てなく起用する動きもあります。 子供番組の出演者にも、男の子なのか女の子なのか見分けがつかないケースもあります。
面白おかしく取り上げている「おねえブーム」自体はどうかと思いますが、おすぎとピーコやはるな愛、カズレーザーや三善英史、勝間和代など多くの有名人がLGBTをカミングアウトしたうえで活躍したりもしています。
左利きのCM起用を非難する人たちは、このような人たちがテレビ出演することも不快だとお思いでしょうか?
100歩譲って不快だと思っているとして、左利き起用CMを非難する人たちは、前記のような少数派の個性の人たちを「常識的な人間ではない」と言って排除することに賛成するのでしょうか?
まさかそんな訳はないでしょう。
既に化石化しそうなマナーを振りかざして、攻撃する人たちの最近の現象には、かつての頑固おやじとは異なる異様な空気が潜んでいるような気がしてなりません。
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